さて日本らしい、ジャガイモ、ニンジン、タマネギが入ったカレーはいつ頃登場したのでしょうか。
1908年(明治41年)に舞鶴海兵団によって刊行された『海軍割烹術参考書』にも、「カレイライス」のレシピが載せられています。
カレイライス
材料牛肉(鶏肉)人参、玉葱、馬鈴薯、「カレイ粉」麥粉、米
初メ米ヲ洗ヒ置キ牛肉(鶏肉)玉葱人参、馬鈴薯ヲ四角ニ恰モ賽ノ目ノ如ク細ク切リ別ニ「フライパン」ニ 「ヘット」ヲ布キ麥粉ヲ入レ狐色位ニ煎リ「カレイ粉」ヲ入レ「スープ」ニテ薄トロヽノ如ク溶シ之レニ前ニ 切リ置キシ肉野菜ヲ少シク煎リテ入レ(馬鈴薯ハ人参玉葱ノ殆ド煮エタルトキ入ル可シ)弱火ニ掛ケ煮込ミ置キ 先ノ米ヲ「スープ」ニテ炊キ之レヲ皿ニ盛リ前ノ煮込ミシモノニ鹽ニテ味ヲ付ケ飯ニ掛ケテ供卓ス此時漬物 類即チ「チャツネ」ヲ付ケテ出スモノトス
[要約]
材料は、牛肉(鶏肉)、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、塩、カレー粉、小麦粉、米。
作り方は、肉、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもを「四角にあたかもさいの目のごとく細かに切り」炒める。 フライパンにヘッド(牛の脂)をひき、小麦粉をきつね色になるまで炒め、カレー粉、スープを入れ、肉、野菜を入れて弱火で煮込み塩で味付けする。
スープで炊いたご飯にかけて漬物類(チャツネ)を付けて出す。
[材料]牛肉(鶏肉)、人参、玉葱、馬鈴薯、塩、カレー粉、小麦粉、米
[作り方]まず、米を洗っておき、牛肉(鶏肉)、玉葱、人参、馬鈴薯を四角に、あたかも賽の目のように細く切り、別にフライパンにヘットを布き、小麦粉を入れてきつね色になる位煎り、カレー粉を入れスープで薄いとろろのように溶かし、これにさっき切っておいた肉、野菜を少し煎って入れ、(馬鈴薯は人参、玉葱がほとんど煮えたときにいれること)、弱火に掛けて煮込んでおく。さっきの米をスープで炊き、これを皿に盛り、さっき煮込んだものに塩で味を付け、飯に掛けて食卓に出す。このとき、漬け物類、すなわちチャツネを付けて出すものとする。
(『復刻 海軍割烹術参考書』イプシロン出版企画より)
この海軍割烹術参考書のレシピのカレーは、小麦粉が多めの、どろっとした仕上がりであったようですが、印象としてはほぼ現在、家庭で愛されているカレーライスと同じではないでしょうか。このようなカレーライスが作られるようになったいきさつとして、あるエピソードがあります。実は、ここでもイギリスが登場してくるのです。
数年前から、横須賀の「海軍カレー」が注目を集めています。日本のカレーライスの発祥の地として、明治41年の『海軍割烹術参考書』のレシピに基づいたカレーライスをショップなどで提供、レトルトや缶詰などの商品を販売しています。そこで伝えられているカレーライス誕生のきっかけとして、イギリス海軍の軍隊食を参考にしたとあります。以下、その軍隊食のいわれの概要です。
イギリス人の好む料理のひとつにシチューがありますが、長い航海では調理に使う牛乳が日持ちしないため、メニューに取り入れることができませんでした。そこで、イギリス人の船乗りたちは、シチューと同じ、肉、ニンジン、ジャガイモ、タマネギなどの食材に、日持ちのする香辛料(カレーパウダー)を使った料理「カレー」を考案しました。これがイギリス海軍の軍隊食として定着し、やがてこの栄養バランスに優れたカレーを日本の海軍でも取り入れることにしたということです。当時、イギリス海軍では、カレーにパンをつけて食べていましたが、より日本人の口に合わせるためにごはんを供することになりました。
現在でも、海上自衛隊では毎週金曜日の昼食のメニューはカレーライスと決まっているとのことです。
このエピソードによると、イギリスのシチューには牛乳を入れているとありますが、現在でいうところのクリームシチューのようなものなのかは、ここからはうかがいしれません。ビーフシチューはイギリスの伝統的な料理のひとつですが、果たして牛乳を使ったクリームシチューが当時のイギリスで食されていたのかどうか。
現在のイギリスではグレイビーソースなどを用いてビーフシチューが作られています。アイルランド地方の伝統的料理には「白い」シチューがあります。しかし明治40年ごろ、日本で発刊された料理書にもシチューが登場していますが、材料に牛乳は見当たりません。中には、シチューの中にカレー粉を入れるという紹介も見受けられます。イギリス海軍の軍用食としてカレーが誕生したいきさつについては、前述のエピソード以外の詳細は不明です。最初にヘイスティングがイギリスにカレーを持ち込んだ当初はごはんが添えられていましたが、のちにイギリス人にとってなじみ深いパンにとって変わったのでしょうか。イギリスのカレーも日本と同じように、その時々の嗜好や流行を取り入れ、さまざまな変化があったのでしょう。